山際総料理長ロングインタビュー[2]
食材を先に決めてからメニューを決める
5. 通常、ホテルのレストランなどでは先にメニューを考えてから食材を仕入れているのだと思いますが、山際さんの場合は「食材ありき」ですよね。なぜそのような逆転の発想が可能になったのですか?
有機野菜を使用する地産地消をテーマに掲げてから、「食材ありき」のほうがスムーズにいくことがわかりました。メニューを先に決めてしまうと、どうしても安定供給できる野菜しか仕入れられません。しかし、食材を先に決めてからメニューを考えるようにしたら、すごくやりやすくなった。うちでは旬の食材に合わせて1ヵ月ごとにメニューを変えていますが、1ヵ月あれば十分できるんですよ。さらに食材からメニューを考えるほうが食材のロスも少なくて済み、コストが下げられるというメリットもあります。
6. 講義でもお話いただいたように、山際さんは斬新なレシピを次々と開発されておられます。そのアイデアはどこから生まれるのですか?
農家さんと何気なく話しているなかでヒントをもらうことが多いですね。ウドの皮のきんぴらや、とろろ芋のシンプルな食べ方もそうです。農家の方々とお話していてわかったのは、新鮮な有機野菜はへんに加工しないほうがいいということ。茹でたり蒸したり焼いたりして、味付けはシンプルにしょうゆと塩だけでも十分おいしいんです。うちには真空調理器があるので、この機械をうまく活用してできるだけシンプルに、その食材のおいしさを引き出すように工夫しています。ただしアイデアは必要。例えばうちでは様々な野菜のアイスクリームを作っていますが、これは野菜嫌いの子どもさんにもおいしく食べていただくためのアイデアです。食材を活かすためには、新しい発想も必要だと思っています。
7. 2009年には「山際体験農場」をオープンされましたが、この目的は何ですか?
採れたての野菜のおいしさをお客様に味わっていただきたいのはもちろん、農家さんたちの思いや、食の大切さをお伝えできる場にしたいという考えがありました。今は宿泊とセットで収穫体験を行っているんですが、とくに東京のお客様に人気です。収穫した野菜でバーベキューをしたり、お土産に持って帰ってもらったり。朝食のバイキングで農場の野菜をお出しすると「野菜がおいしいね」と言ってくださるんですよ。また、この農場はうちの若いスタッフたちにもいい刺激を与えています。最初は乗り気でなかったスタッフも手伝いに行くうちにやる気になって、農場に行く回数が増えるんです。農家さんたちの苦労もわかりますし、収穫した野菜をどんな料理にするか考える楽しみもある。この農場を作ったことでスタッフの一体感が生まれたことが、私にとってはうれしいですね。
8. 親子料理教室や料理講習会などの活動も積極的に行われていますね。
親子料理教室は、2009年の夏以降だけで7回くらい開催しました。これのメインはご飯をお鍋で炊くことです。子どもたちを主役にして、親御さんたちはキッチンの外で見守っていただく。そうすると、子どもたちが親御さんに食べてもらうときにすごく喜ばしい表情をするんですね。そういう機会が今の日常ではないのかなと思います。昔は、朝食を作るまな板のトントンという音や、ご飯を炊く匂いや、みそ汁の香りを五感で感じて目覚めていたものです。でも今は電子レンジのチンという音だそうです。そもそも朝食を食べない、というか親御さんが作られないご家庭も多いみたいですね。また、こないだ中学生と話していたら、小さいころ我々が食べていた桑の実、あけび、くるみ、ぐみ、山桃などを知りませんでした。もちろん野菜の旬もわかりません。「心の乱れは、食の乱れ/食の乱れは、心の乱れ」といいますし、我々はもっと食べる知恵を伝えていかなければいけないとつくづく思いますね。親子料理教室や料理講習会などを通じて、このキッチンスタジアムが未来を担う子どもたちに食育を伝承する場になっていけばと願っています。